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2017.04/22(Sat)

任務 七年七ヶ月

NHK Eテレで先月放送された「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」

この番組で、愛猫家の作家たちのエッセーや小説が紹介されたのですが
角田光代さんの書下ろし小説「任務十八年」を聴いて
ゴロウさんとの日々を思い出し、久しぶりに涙まみれになっていました。

ここでいう猫の任務とは、人間界へ派遣され飼い猫として生き、
人を平和的生き物にすることだそうで、
その任務を十八年まっとうした猫の“わたし”が、
飼い主だった“さくらさん”の様子を見届けるため、
一日だけ仮の毛皮を着てこの世に戻ってきます。

飼い猫のわたしを失って、凶悪な人間になってしまっていないか・・・。
でも、そんな心配をよそに、さくらさんは穏やかに生活をしていました。
そして、さくらさんのふとした手の動きに
十八年の共に過ごした日々が、猫の記憶に蘇ってきます。


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小さな、小さなわたしを包んだ両手。
頭をもたせかけて眠った、ふわふわのお腹。
嫌いだったシャンプーの泡と、やわらかいシャワーのお湯。
テーブルに乗り損ねて床に落ちて、それを見て、はじけるように笑う声。
毎日用意されるごはんと「おいしいね」という声。
温かい陽射しのなかでの居眠り。交じり合うわたしたちの寝息。
(中略)
わたしを失って、あなたは凶悪になんかなっていない。
何も恨んでも、怒ってもいない。
ただ、自分を満たすものを繰り返し確認している。あくまで平和に。

「ねえねえ、きっといつか、また別の衣をまとって、
あなたのところへ派遣されるから待っていてよ」と、
物陰からわたしは言いそうになる。 
でも、言わないのは、おんなじことをさくらさんもまた、思っていることが分かるから。
さくらさんも、いつかまた、わたしが自分のところに戻ってくると、
確信していることが分かるから。

「任務十八年」角田光代 より


ここまで聴いて・・・もうダメです。 涙腺が一気に緩んでしまいました。


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ゴロウさん、あなたがわが家に来たのが2009年の1月だから、
あなたの任務期間は、七年と七ヶ月になるのかな?
あなたを失って、ねーさんはちょっと、やさぐれているかもしれませんが、
凶悪にはなっていないと思うので、どうか安心してください(笑)

そして、またいつか、身寄りのない猫さんのお世話をしたいと思っています。
ゴロウさんが衣を着替えた猫さんかもしれないし、そうでないかもしれない。
どちらにしても、精一杯お世話をしたい、心からそう思っていますよ。




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【More・・・】

「任務十八年」 角田光代

さて、任務が終わったので帰ることとなった。
借りていた衣を脱いで、もといた場所に帰る。
この衣をすっかり脱いでしまったら、わたしたちは人間界とは無関係になる。
本来わたしは時間という概念を持たないから、
今より先のことを考えたりはしないのだけれど、
わたしたちの派遣先である人間は、今より先のこと、今より昔のことを、
繰り返し、繰り返し考える生き物だ。
今おきていないことや、存在していなものを思い描いては、
怖がったり不安になったりしている。
ずっと前にやったことや おきたことを思い出しては、後悔したり落ち込んだりする。 
先のことも前のことも考えなければいいのに それはどうしてもできないみたいだ。

だからきっと、わたしの任務先であった人間「さくらさん」も、
わたしがやってきた当初から、わたしがいなくなることを思い描いていた。
わたしの帰還後はきっと、おろかにも後悔したり、泣いたりするのにちがいない。

わたしたちはそれぞれ任務をうけて、衣をかりて、担当の人間のところに向かう。
ひとりでいくこともあれば 兄弟や親子で行くこともある
目が合って念を送ると、狙い通り人間はわたしたちを いともたやすく家に招き入れる。

そうしてわたしたちは、それぞれ定められた任務期間、その人間と暮らし、
定められた諜報、謀略活動を行う。

諜報は報告書を提出すること。
謀略はともかく、自分の力ではなんにもしないこと。 
なんでも人間にやってもらうこと。

諜報とか謀略とか言葉は悪いが、わたしたちが基本的に行っているのは、平和的活動だ。
その証拠に、私たちを迎え入れた人間は九割がた平和的行動をするようになる。
善良な人間になるわけではないが、小さな生き物に対してだけは平和的な心になる。
私たちが額から発する睡眠誘発剤を無自覚に吸って、
すやすや眠りこむだけで人間の心は平和になるのだ。

任務は三年のこともあるし、二十年以上にわたることもある。
わたしの場合は十八年だった。
十八年、いろいろあった・・・と、言いたいところだけど
わたしには今より前のことを考えることができないから、覚えていない。

わたしを迎えた時のさくらさんはおばさんだったけれど、
この任務期間におばあさんになった。 
すっかり平和的なおばあさんだ。 
帰ったら私はこの功績をたたえられて表彰されるだろう。
それではさくらさん、さようなら。さようなら。ありがとう。

衣を脱いで帰っていく間、背を丸めてわたしの脱いだ衣を抱きかかえて
「わおん、わおん」と吠えるように泣きながら、
私の名を呼ぶさくらさんの声が聞こえていた。

案の定わたしは十八年の功績を評価されて表彰され、ご褒美に休暇をもらうこととなった。
私は少し考えたのだけれど、休暇を返上し、任務の結果を視察したいと願い出た。
平和的なおばあさんになったさくらさんは、わたしがいなくなって、
凶悪なおばあさんになっていないか視察したい。 
本来ならば、任務を離れたばかりの人間のもとへ戻ることは許可されない。
けれどもたぶん、私の功績が認められ、その視察目的も納得のいくものだったのだろう。
許可が下りた。
一日だけ。

灰色の汚れた外用の衣をかりて、わたしは再び住み慣れた町へと降りていき、
赤い屋根の小さなお家の前にたどり着く。 
見つかったらいけない。 あくまで視察なのだ。
しばらくすると、ドアが開いておばあさんが出てきた。さくらさん。
買い物に行くのだ。前より背中を丸めて、しょんぼりとして足取りも重い。 
なんだか凶悪になっている気がする。
収集前のごみを蹴ったり、小さな生き物に石を投げつけたりするのではないか。
そうしたら私の十八年もの任務がパアだ。 

見つからないように、こっそり後をつける。
公園を通りすぎたところで、さくらさんが足を止める。 
じっと何かを見る。
知っている。 
電信柱の下に、ずっと前から付着しているペンキが、わたしか、わたしの仲間に見えるのだ。 
まったく同じ場所なのに、さくらさんは何度でも見間違えをして足を止める。
そして、間違いに気付いて「なんだ、ペンキか」と笑って立ち去るのだ。
でも、このときは立ち去らずその電信柱に近づいていく。 
わたしでも、私の仲間でもない、ただのペンキの汚れだとわかっているのに
近づいて、しゃがむ。 
蹴るのか、つばをはくのか。
注視していると、さくらさんはそっと手を伸ばし、ただのペンキ跡を優しく撫でる。
びくりとする。
その手の感触が、直に触られたかと思うくらい、はっきりわかったから。
丸くて、ぶあつくて、かわいていて、温かい手の平。 
背中を、耳のうしろを、額を、あごを包むように行き来する手の平。
わたしは、今なでられているかのように、さくらさんの手の平の感じを思い出す。
驚いたことにそれを合図のようにして、次々といろんなことが溢れだしてくる。

小さな、小さなわたしを包んだ両手。頭をもたせかけて眠った、ふわふわのお腹。
嫌いだったシャンプーの泡と、やわらかいシャワーのお湯。
テーブルに乗り損ねて床に落ちて、それを見てはじけるように笑う声。
毎日用意されるごはんと「おいしいね」という声。
温かい陽射しのなかでの居眠り。交じり合うわたしたちの寝息。

今、ただのペンキ跡を撫でているさくらさんも、
おんなじことを思い出しているのが、わたしには分かる。

わたしを失って、あなたは凶悪になんかなっていない。何も恨んでも、怒ってもいない。
ただ、自分を満たすものを繰り返し確認している。あくまで平和に。

「ねえねえ、きっといつか、また別の衣をまとって、
あなたのところへ派遣されるから待っていてよ」と、
物陰からわたしは言いそうになる。 
でも言わないのは、おんなじことをさくらさんもまた、思っていることが分かるから。
さくらさんも、いつかまた、わたしが自分のところに戻ってくると
確信していることが分かるから。

あれ? わたし、今より前のことも先のこともわからないはずなのに、 
なのに、思い出しているし。 いつかわからない先のことを考えている。
あ・・そうか。 
わたしは人間を視察したかったのではなくて、本当はこのことを知りたかったのだ。 
時間の概念がない私にも、今を作ってきた今までがあり、今がつくるこの先があると、
そのことを確かめたかったのだ。

さくらさんは、ペンキ跡を撫でていた手をふと止めて、ふり返る。
わたしはとっさに物陰にかくれる。 
見つからなかったはずだけれど、さくらさんは、十八年ずっとわたしに向けていたのと同じ顔で、
「にー」と笑うと立ち上がり、青空の下、歩いて行く。


テーマ : 猫と暮らす - ジャンル : ペット

18:51  |  ゴロウさんの思い出  |  CM(8)  |  EDIT  |  Top↑

うーーーーーー、
私も今、読んで泣けました。
ペットという存在を、より一層愛おしく思います。
viola | 2017.04.23(日) 00:50 | URL | コメント編集

●Re: violaさん

こんにちは

ええ、もう久々に・・泣きました。
きっと、ゴロウさんがひっくり返ってしまうくらいの
大号泣レベルで(;'∀')

ゴロ猫tomo* | 2017.04.23(日) 10:09 | URL | コメント編集

うちにも4年と、1週間の任務でやってきた子たちがいたんですよー。
そして今まさに任務遂行中のふたり。

中身が同じかどうかはわからないけど、つながってるなーと思う瞬間が確かにあります。
悲しいこともふくめて、初代にゃんが家に来た時からずっと私は幸せなんだと思っています。

ゴロウさん、ゴロウさんにもきっとまた会えますね。
その日を楽しみに、のんびり待っていますよ(^v^)
まめちゃろ | 2017.04.23(日) 13:41 | URL | コメント編集

素敵なお話を、ありがとうございました。
私も、泣きそうになりました(^_^;)
tyare | 2017.04.23(日) 20:19 | URL | コメント編集

ゴロ猫tomo*様

素敵なお話ですね、涙腺にきます・・・
私もみぃとにゃおが帰って来るのを本気で待っています
あまり遅くなるとこちらがそっちに行くのが先になるかもしれませんが(笑)
にゃおぐらふぁー(今日の猫さんぽ) | 2017.04.24(月) 00:41 | URL | コメント編集

●Re: まめちゃろさん

> 4年と、1週間
そうでしたね。
そして今まさに任務遂行中の、王子とぴぃちゃん。

幸せのバトンを繋いでいく猫さんたち♡
いつかわが家にもまた来てくれる…
私もそう信じています(#^.^#)
ゴロ猫tomo* | 2017.04.25(火) 19:25 | URL | コメント編集

●Re: tyare さん

こんにちは、コメントありがとうございます。

久々に泣きました。
シクシク、メソメソ というレベルではなく
大泣きしたのでした…(^^;
ゴロ猫tomo* | 2017.04.25(火) 19:27 | URL | コメント編集

●Re: にゃおぐらふぁーさん

ええ、角田光代さんの心に沁みる文章に
涙・涙・涙・・・でした。

みぃちゃんが戻ってくるのを
私も心待ちにしていますよ(^_-)-☆
ゴロ猫tomo* | 2017.04.25(火) 19:30 | URL | コメント編集

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